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2014年4月10日 (木)

第66回大会:研究発表・講演要旨

"Love Among the Artists" ― Design for Livingにおけるモダンな芸術家たち
西本奏子
 ノエル・カワード(Noël Coward, 1899–1973)のDesign for Living (1932)は、インテリア・デコレーターとして働く女性のギルダが、劇作家、画家、絵画ディーラーである3人の男性と関係を持ちながら人生を設計していく姿を描いている。登場人物がみな芸術に関わる仕事をしているのだが、先行研究ではこれら4名のセクシュアリティの問題に焦点が当てられることが多く、彼らの職業は重要視されてこなかった。そこで今回の発表では、特にギルダを中心として、登場人物たちの関係性を作品の舞台である1930年代の英国および米国のモダンな芸術家たちの駆け引きとして読み直したい。

階級差を乗り越える過程としてのシスターフッド ― 『ジャズ』におけるアリスとヴァイオレットの交流
空閑あゆみ
 トニ・モリスンの描くシスターフッドは、総じて本質主義的な視点からのみ分析されてきた。しかし、本発表では『ジャズ』(1992)に描かれている中産階級のアリス・マンフレッドと下層階級のヴァイオレット・トレースの結束を、ブラック・フェミニストであるベル・フックスの"Postmodern Blackness" (1990)を援用して、本質主義的な視点だけでなく、構築主義的な立場からも再考する。

Elizabeth GaskellのWives and Daughtersにおける階級観
新井潤美
 ギャスケルの最後の、そして未完の小説Wives and Daughters(1866年出版)は1830年代のイングランドの田舎の町を舞台にしている。そこでは昔からの地主の家、羽振りの良い貴族の家、主人公モリーの父親である医師、貴族の土地と屋敷の管理人、医師の後妻となる、もと家庭教師、町の人々など、様々な階級の人々、そして彼らのプライドや階級意識が鮮やかに描かれている。なかでも、モリーの継母となるカークパトリック夫人は、一見しとやかで優しそうだが、実は階級的上昇志向の強い、虚栄心の強い女性で、自分の地位を高めるにはほとんど手段を選ばない、といった無情さを見せる。じっさい、彼女はこの小説の「悪役」であり、モリーと父親の仲を裂くような「意地悪な継母」の要素さえもっている。平和な田舎町を描いた作品でギャスケルがなぜこのような「悪役」を描いたのか、当時の変わりつつある階級意識を分析しながら考察していきたい。