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2015年4月17日 (金)

第67回大会:研究発表・講演要旨

『鎖を解かれたプロメテウス』におけるシェリーの詩精神の体現
山本真由美
 『鎖を解かれたプロメテウス』は、シェリーの代表作であり、主人公プロメテウスがジュピターから虐げられるも最終的に自由を勝ち取る様を描いたLyrical Dramaである。この作品には哲学や宗教など、シェリーの様々な思想が反映されていると言われる。今回の発表では、まず形式と神話の側面、つまりこの作品においてシェリーがいかに同時代の流れをくみ、いかに従来の神話を改変しているのかに目を向けたい。更に、これらを考慮した上で、プロメテウスの解放と完成というクライマックスに体現されているシェリーの詩精神を読み解いてみたいと思う。

国民の自立と教育 ― CarlyleとYoung Irelandを中心に
高橋悠香
 Thomas Carlyle (1795–1881)とアイルランド青年党(Young Ireland)は、その生まれやアイルランド問題への態度の違いから、一見するとなんら関わりのないように思えるが、近年彼らの知的交流が注目されつつある。今回の発表では、Carlyleの著作に描かれているような個人の精神的成長の重要性が、Young Irelandが理想としたアイルランド国民の自立、そして教育の重要性に変換されていく過程を追う。19世紀のアイルランドでは教育改革が議論の的になったが、フランス革命や相次ぐ社会不安を伴って、個人の内面を定義し鍛えることがヨーロッパの知識人の間で強調されるようになった。その波及がCarlyleを通じてもアイルランドに及んだ様を観察する。

Barbara W. Tuchman, A Distant Mirror 『遠い鏡』翻訳発刊までの遠い道
徳永守儀
 本書の翻訳を本格的に始めたのは、私が75歳となり、知的活動は、読書をするくらいで、何も義務がなくなってからである。自由な身になったら、家庭菜園を楽しみ、子供時代から好きだった鉄道模型いじり、さらにキーボードを覚えること、が思う存分できるようになると思った。しかし、大学に行かない日が何日もすぎていくと、このまま無為に人生をすごしていいのだろうかと、自問するようになった。生意気にも、生きているしるしを残そうと思うようになった。そこで、中途半端になっていた、タックマンの翻訳を正式にはじめることにした。
 いざ、はじめて見ると、原本が分厚く、固有名詞や地名がわからないことが多く、また、表現が妙に比喩的であったり、飛躍したりすることがあり、容易ではなかった。原注はあったが、翻訳の助けにはならない。わからないところは直訳して、息子や妻に読んでもらい、意見をきくこともあった。1日平均1ページくらいこなしてやっと8割くらい進んだ頃、翻訳権、出版社の心配がでてきた。科研費や私家本のことも考えた。結局自費出版となり、何とか刊行にこぎつけた。分厚い本を見ると、我ながらよくやったと思うこともあるが、校閲、校正が不十分なこともあり、無念な気がする。
 このたび、サウンディングズ会長小林章夫氏のすすめで、本書刊行までの話をするようにとのことなので、下記の事項をとりあげてみようと思う。

  1. 翻訳の底本について
  2. タックマン(1912–1989)との出会い
  3. 中世とはどういう時代か
  4. タックマンとホイジンガ(1872–1945)
  5. タックマン方式の特徴
  6. 中世への関心とタックマンの翻訳
  7. 翻訳書の体裁などの詳細
  8. 翻訳の手順と留意点
  9. 出版社の決定・契約・翻訳権取得について
  10. 校閲・校正について
  11. 宣伝・拡販について
  12. 新聞の書評