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2023年4月 8日 (土)

第75回大会:研究発表・講演要旨

『冬物語』の宮廷上演と三十年戦争
田村真弓

 ウィリアム・シェイクスピア(William Shakespeare, 1564–1616)の『冬物語』(The Winter’s Tale, 1611)は、1611年11月5日の宮廷上演を皮切りに、1642年の清教徒革命による劇場閉鎖までに、宮廷で5度上演されている。その他の劇の上演は、通常1、2回であったことを考慮すると、『冬物語』の宮廷上演の回数は、極めて多いと言わざるを得ない。本発表では、『冬物語』の5度の宮廷上演のうち、1618年、1624年、1634年の上演に注目し、宮廷もしくは民衆劇場で同時期に上演された劇や仮面劇と共に、歴史的・政治的背景から分析することで、それらの上演の意義を探りたい。加えて、1612年から1613年にかけての『冬物語』の上演が、ジェームズ王の息女エリザベス・ステュアート(Elizabeth Stuart, 1596–1662)とプファルツ選帝侯フリードリヒ五世の祝婚の余興の一つであったことから、エリザベスと『冬物語』の宮廷上演の関係性を考察したい。

ウォルター・ペイターのギリシア彫刻論 — 彫刻は倫理的観念の伝達者たりうるか
舟川一彦

 死後出版されたペイターの『ギリシア研究』(Greek Studies, 1895)の後半部をなすのは、ギリシア彫刻に関するエッセイ4篇である。この一連の論考の中で彼が、同書前半の神話論のテーマをどのように発展させたかを考える。
 ペイターは初期のエッセイ「ヴィンケルマン」(1867)で、ヘーゲルの美術史理論に依拠して、彫刻を古代ギリシア人の精神に適合した「古典的藝術」と特徴づけていた。それはつまり、キリスト教以後および近代の人間の内面や精神を表現するには不適格という意味だった。ところが1870年代中頃のギリシア神話論において、ペイターは人間の内面と倫理性の表現という重い役割を彫刻に与え、ギリシア彫刻がその任務を実際に果たしたと主張するようになる。その動機は、ギリシア彫刻に題材を提供するギリシア宗教と、キリスト教および近代の精神との近似性と連続性を立証したいという願望にあった。
 1880年前後に書かれ、『ギリシア研究』後半に収められた彫刻論でペイターが果たしてそれを立証しえたのか、もし立証できなかったとすれば、彼がどのような形で自らの理論の欠落点を埋め合わせようとしたのかを観察する。