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2017年4月12日 (水)

第69回大会:研究発表・講演要旨

スウィフトと機械的詩作論
下川舞子
 『霊感の機械的操作論』(1704)において、自らを人工的にトランス状態に持っていくための様々な即物的工夫を凝らし、その結果として現れた「機械的光明」を崇める者達の描写には、熱狂に対するスウィフトの強い反感が反映されている。しかし、体内を「たちまち駆け上ってくる蒸気」によって陶酔状態に陥るというこの疑似医学論は、スウィフトのパトロンであったテンプルが、偉大な詩人の脳には「ある種の熱」が働きかけているのではないかという記述とも類似点を持つ。本論は、機械論的に見た人体が知的活動に及ぼす影響を解明しようとする近代自然哲学の試みと、詩作論とが交差する点として、スウィフトの風刺を読む事を試みる。

ジョナサン・スウィフトとアイルランド植民地問題
浦口理麻
 ジョナサン・スウィフト(Jonathan Swift, 1667–1745)はアングロ・アイリッシュであるため、彼の作品にはアイルランド寄りの視点とイングランド寄りの視点が混在している。そのため、イングランドのアイルランド支配の問題に対するスウィフトの態度には時に矛盾が見られることもある。この矛盾に関してはすでに数多くの論考があるが、多くのものが1720年代以降の作品を分析対象としている。本発表においてはアイルランドの問題が扱われた1700年代の2つの作品に注目しながらスウィフトの曖昧性を論じていく。また、作品の中ではスコットランドの問題も扱われているので、イングランド、スコットランド、アイルランドの関係にも注目したい。

変節者の本意とは? — ジョナサン・スウィフトの政治思想を探る
中島渉
 二大政党が根づきだした18世紀初頭のイギリス政界にあって、ホイッグからトーリーへの転向を果たしたとされるジョナサン・スウィフトだが、その言説の真の党派性をめぐっては、専門家の間でも未だに意見が分かれている。一見したところ中道を装い、容易に言質をとらせないその筆致に読者は翻弄されるのが常だけれども、代表作『ガリバー旅行記』の例を見るまでもなく、彼の主義主張には何らかの強烈なバイアスがかかっていることは疑いない。
 結局スウィフトはホイッグなのか、トーリーなのか。それとも何か別のアプローチは可能なのか。本講演では、彼の政治文書を貫く堅固な保守性に着目し、その国家観の実像をとらえることに努めてみたい。