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2016年5月 3日 (火)

第68回大会:研究発表・シンポジウム要旨

“You Done Me Wrong” ― Gertrude “Ma” Raineyの“Stack O’Lee Blues”に見られる悪漢のイメージ
岸啓介
 ガートルード・マ・レイニーは、1920年代のいわゆるクラシック・ブルースを代表する歌手の一人である。彼女の歌った『スタック・オリー・ブルース』は黒人口承文化における原型的な悪漢Stagger Leeを扱っているが、女性の視点から描かれるこの悪漢像について従来あまり論じられて来なかった。本発表では、マ・レイニー版の歌詞=テクストを読解するにあたり、サブテクストとして存在する別の伝承にも着目することで、当時の女性ブルース歌手の歌唱に込められた重層性を読み取りたい。

王政復古期のシェイクスピア劇 — マスク化されたThe Tempest
田村真弓
 William Shakespeare (1564–1616)の作品中、最も音楽性の豊かな劇であるThe Tempest (1611)は、王政復古期の上演時に、歌と踊りの要素を増して、「オペラ化」されたと言われてきた。しかし、この時代に改訂されたThe Tempestは、実は「オペラ化」されたのではなく、「マスク(仮面劇)化」されたのではないだろうか。本発表では、John Dryden (1631–1700)とWilliam D’Avenant (1606–68)によるThe Enchanted Island (1667)とThomas Shadwell (1642?–92)のThe Enchanted Island (1674)を主要なテクストとして取り上げ、オペラとマスクの本質的な違いやマスクの政治性に焦点を当てながら、王政復古期のThe Tempest上演の意義を明らかにしようと思う。

書斎の外のシェイクスピア
石塚倫子、杉木良明、武岡由樹子
 今年はシェイクスピアの没後400年にあたります。それを記念して、書斎で作品を読んだり劇場で観劇したりするだけではない、シェイクスピアを楽しむ多様な視点を探ってみます。そもそもシェイクスピアという人物そのものがミステリーであり、つきない興味の源泉ですので、まずは様々な伝記から得られる食い違った情報やいくつかの別人説等々を紹介し、シェイクスピアの生涯の謎や時代背景について考えてみます(武岡)。続いて、400年を越える上演の歴史を振り返ることによって、彼の作品が異なる時代や文化を背景にどのように受容され、各時代や国の観客にどんな刺戟を与えてきたかを見るために、シェイクスピア上演史を①エリザベス時代からヴィクトリア時代まで(杉木)、②20–21世紀(西)、③日本(翻訳史を含む)(石塚)、という具合に分担して紹介します。